※本作品にはR-18程度の性的表現が含まれます。18歳未満の方は閲覧をお控えください。


「オレ、毎年夏になると週一ペースでプール行くんだわ。

 つっても、別にスポーツなんか好きでもなんでもない。うそ。ほんとはちょっと好き。でも、実際オレがプール好きなのは、泳ぐのが好きだからじゃない。ひとえに水着の姉ちゃんが好きだからだ。

 海行けりゃ、一番いいんだけどな。でも実際問題、海で泳げる期間ってスゲー短いし、こっからだとちょっと遠いじゃん。だからオレはプール併設してる近場のジムに通ってたわけだけど。……来るお姉ちゃんお姉ちゃん、何それ鎧? ってレベルの競泳用ばっかりでさあ。ビキニの紐がほどけてポロリなんてラッキースケベどころかビーチクすら見えやしねえんだ。鉄壁だよ鉄壁。あんなもん誰が開発したのか知らねえけど、大馬鹿野郎だぜ。

 まあでも、体のラインはぴっちり出てるからさあ。洋服よりはいっかーなんて思いながら、プールサイドのビーチチェアに寝そべって、目の保養してたんだ。

 そこのプールって結構広くて、まあまあにぎわってたから、それなりにドラマもあったりしたんだぜ。たとえばちゃらちゃらした監視員の兄ちゃんなんかが、来てる女の子に声かけるわけよ。誇らしげに武勇伝とか語っちゃったりしてさ。半分以上はしょっぺー話だったけど、なかなか口が上手いから女の子もそれなりに食いついてた。

 かく言うオレも、その兄ちゃんの幽霊話には、ちょっと心ひかれたね。

 なんでもな? 監視員の兄ちゃんの話によると、そこのプール、っていうかスポーツジム? が建つ前って、ホテルだったらしいんだよ。でも、十五年ほど前に、火事でなくなっちゃった。幸いにも大半のお客さんや従業員は避難してたんだけど、一人だけ、炎の中に取り残されてたらしい。……連泊中の宿泊客で、あと一日泊まる予定だったんだけど、フロントのミスで、チェックアウトしたものと思ってたんだって。それで、火事でバタバタしてたのもあって、連絡が遅れて、そのまま……。

 もちろん御祓いはした。でも、生きながらにして焼かれたその苦しみは、そう簡単に消えるもんじゃない。その人の怨念がいまだに残ってて、成仏できずにこの世をさまよってるんだって。で、ちょうど火事のあった二十二時頃になると、水気を求めてこのプールに出るんだってさ。

 その話聞いた女の子たち、ビビってきゃーきゃー言ってた。中には泣きだして、帰っちゃう子もいた。兄ちゃん、ナンパしてるんだろうけど、完全に逆効果だったぜ。それに、ジムの前身は確かにホテルだったけど、潰れたのはただの経営難だし。燃えてねーし。まあでも、作り話にしてはうめーなと思ったよ。


 さて、夏も終わりに近づいて、オレが、そんな話のことなんかすっかり忘れたある日のことだ。

 人気もまばらになった、閉園間際の二十二時。忘れ物を取りにプールサイドに戻ったら、水しぶきを上げながら、凄い勢いで誰かが25mプールを泳いでたんだ。そいつは、あっという間にコーナーを折り返して、向こう側の壁についた。
 水面から黒い海坊主みたいな頭がにゅっと出てきて、ゆっくりプールサイドに上がった。黒いプールキャップにゴーグルつけて、例の耐水アーマーを上下にがっちり着込んでた。だいぶ筋肉質な感じだったけど、まあ女の子だろうと思った。でも胸はそんななかった。だから、わざわざ口説くこともねーなと思って、オレはビーチチェアに置きっぱになってたタオル回収したら、さっさと帰るつもりでいたんだ。でもその子がプールキャップ脱いだ時、オレ、つい立ち止まって、そっち見ちゃったんだ。

 なんせ髪の色が日本人らしからぬ色だったもんで、驚いちゃってさあ。……何色って? 金だよ、金。いわゆるブロンドってやつ。あれ地毛かなあ、なんてまじまじ見てたら、顔見てまたびっくり。横顔すげー美人だったんだ。つい口笛吹いちまったね。

 髪から水が滴るのが、また色っぽくてさあ。でもちょっと、こう、胸を締め付けるような、痛ましい感じもありつつで、どうにも、ほっとけない感じでさあ。つい、ぼーっと眺めてたんだけどさ、なんかその子、ちょっと様子が変なんだよ。プールサイドを、ずっとうろうろしてるんだ。髪からぼたぼた水を滴らせながら、いつまでも、いつまでも……。

 いや、おかしいなと、オレも思ったよ。でも、そうなんだよ。あの子、ひょっとして…………………………タオル持ってないんじゃん?

 ふと手もとを見ると、オレの手の中にはタオルがある。使用済みの、ちょっと湿ったやつ。でもさすがにこれは女の子にはダメだよな。どうしようと思ってたら、最後まで残ってた監視員――――あの口の上手いナンパ野郎が走ってきて、その子にタオルを渡したんだ。そいつ、結構デカい奴だったんだけど、並んでもそんなにちっこくなかった。その外人の子、背が高くて、結構引き締まってて、なんつーか、海外のスポーツ選手みたいな感じ? おっぱいないけど、美人だし、ああいうのもアリかなって考えを改めたオレは、とりあえず連絡先聞いといて、あわよくばお食事でも~と、その子の後をついてったんだ。

 ただな。どーもその監視員とオレって、同じ穴のムジナみたいでさあ。その子狙ってるっぽいのよ。親しげに肩なんか組んじゃってさあ。なれなれしいったらねーよ。まあでも、さすがにその監視員も更衣室まではついていかないだろうから、オレは諦めずに二人の後をつけて、チャンスを待ったのね。

 ところが! その監視員とべっぴんさん、連れだってどこまでも一緒に歩いていくんだ。そして入った先はといえば、男子更衣室。もう閉園時間すぎてて人の気配なんか全然ない、静かな更衣室の奥の方に、二人はどんどん進んでってさ。コインロッカーの間のベンチに陣取ったかと思うと、二人抱き合って、キスしてんの。それがまた、熱烈でさあ。その時オレは、その二人が、ただの監視員と客の関係じゃないって気づいたんだけど。名探偵オレは、もっと大変なことに気づいてしまったんだ。
『ははーん? あんにゃろう、前にえげつねえ幽霊バナシしてたけど……さては、カノジョとこういうアブノーマルなプレイするために人払いしてやがったんだなー?』……とね。

 そんな策士は、その子の水着の上――セパレートタイプだったみたい――を脱がして、ベンチの上に放った。ちくしょうプールで火遊びしてんじゃねえよと思ったけどさあ。他人の現場なんてめったに見ることねえからさ。まあ……見ちゃうよね。

 オレはコインロッカーの陰に身をひそめて、ナリユキを見守った。結構いい雰囲気になったところで、おもむろに監視員が立ち上がった。一瞬バレたか? と思ったけど、そいつはベンチのすぐそばで膝をついた。ショートヘアのブロンドちゃんは、ロッカー開けてなんか探し物してるそいつのこと、黙ってじっと見てたんだけど、ふと振り返って、オレの方、ちらっと見たんだ。

 オレ、やべって思ってとっさに隠れた。……ヤバくて隠れなきゃいけないの、よく考えたら向こうなんだけどな。オレそん時テンパってて、やばいくらいドキドキしてたんだ。たぶんそいつらの熱が飛び火してたんだろうな。もう、とにかくただ、続きが見たかった。

 でも、見てんのバレちゃったから、その子、恥ずかしがっちゃってお開きになるかなあと思って、オレ、心のどこかでちょっとがっかりしてたのね。でも、しばらく待ってみても、そいつら、一向に出てくる気配がない。着替えてるような衣ずれの音とかはしないけど、たまに、なんか、ねちょねちょしたかんじの音がする。変だなと思って、オレ、もう一回、そろーっと顔出して覗いたんだ。そしたら、続きしてんの。何事もなかったみたいに。

 さっき目が合ったの気のせいじゃないよな? オレ、見てんの気付いてるよな? と思って、じっとその子のこと見てたら、男の肩越しに、また目が合った。今度は、完全に目が合った。絶対に、百パーセント、間違いなく。そしたらその子、ふっと笑ったんだ。まるで、オレのこと、挑発するみたいにさ。
 そん時、オレ、なんか、ゾクっときて。あ、これアレだなーと思ったら、案の定たってた。

 現場は、男の言動によると、二本入っちゃってたらしい。しかも、使ってんのは後ろの方。プレイまでアブノーマルな、ド変態カップルだよ。男の肩にしがみついて、時々、鼻にかかった甘い声とか漏らしちゃってさあ。見せつけてくれちゃってんだよ。クソビッチが。でも正直、悩ましげな顔とか声とか、めちゃくちゃそそるんだよ。やべーと思ったけど、目ぇ逸らせねえんだよ。脳みそから爪先まで全身その子に釘づけ状態で、気がついたらオレの右手は、操縦桿にぎって発射の準備を始めてた。

 しかもさあ、その子ったらさあ、オレが物陰でデバガメって悪さしてんの見えてるだろうに、男の耳元に唇近づけてさあ、甘い声でおねだりするんだ。『ねえ、はやく』なんて……オレの方に、熱っぽく潤んだ目を向けながら。
 そん時二メーター近く離れてたオレでさえひとたまりもねえんだから、そんな攻撃間近で受けた兄ちゃんは、まあ、死んだよね。

 かくして、背中の広い特攻隊長が、秘密の洞窟に突入した。んだけども、その子、めっちゃめちゃ気持ちよさそーな顔して、ため息つくんだ。そういう顔は、もちろん監視員の兄ちゃんも見てるから、ますますハッスルしちゃってさ。エグいくらい腰使って、もうパンパンいう音が耳澄ませるまでもなくこっちまで聞こえてくる。

 さすがにその子もまずいと思ったのか、音やばいからもっとゆっくりしてって、監視員の兄ちゃんに言ったけど、もう完全に火ぃついちゃってて、全然止まんないのね。だもんだから、それまで喘ぐっつっても押し殺したような声だったのが、もう喉の奥から飛び出すような感じになっててさ。口、手で覆ってたけど、もう焼け石に水っつーか。無駄な努力だったよね。さっきオレのこと挑発した小悪魔的余裕はどこへやら、赤くなった頬を涙で濡らして、声なんかもうすげー高くて、うわずっててさ。そんなザマでやだやだやめてっつったってさ。オトコがやめるわけねーじゃん。

 監視員の兄ちゃんもいよいよ本気になったらしくて、その子をベンチに押し倒した。壊れちゃうんじゃねーのってくらい激しくてさ。その子もうほとんど泣いてるみたいで、さすがにちょっとかわいそうになったけど。でも、体勢が変わったおかげで連結部分が見えるようになった。あんまり激しくするもんだから、男のソレでめいっぱい広げられた穴から白いのが垂れて、ベンチの下にまでしたたってた。

 気が付いたらオレの足元もそんな風になってた。オレとその子と、どっちが先だったかわかんない。でも、ともかくもピーク超えて、その子の声が心なしダルそうになっても、兄ちゃんはまだがんばってたな。

 それからまあ、やっと兄ちゃんが燃え尽きて。その子が照れ隠しにか、兄ちゃんにうらみごとぶつけてた頃だったかな。誰かがオレの肩トントン叩いたんだ。 『すみませんけど、もうプール閉めるんで』

 心臓飛び出るかと思ったさ。背後から急に声かけられたんで。でもオレがすぐ恰好整えて振り返って、『あ、そーなんスか? すいません。ちょっとハラ痛くて』って対応したのは、本当に自分でもよくやったと思う。別に怪しまれたりもしなかったしな。けどそいつ、奥の方見に行きそうだったんで、オレはそいつを引き留めて、口先一丁でその子のいる方とは反対側に引っ張ってってやったんだ。本当にいい仕事した。まあ、今年一番の傑作ポルノ見せてもらったし、鑑賞料みたいなもんよ。……二ラウンド目観戦できないのは、ちょっと残念だったけどな。

 で、それからしばらく経った後。プール行ったら、また、その子と会ったんだ。ショートのブロンドちゃんと。…………野郎どものひしめきあう、むさくるしい男子更衣室でな。
 ちょうど着替え中でさ。下はジーパン履いてたけど、上は御開帳。ほれぼれするくらい見事に割れた腹筋の上に、絶望的な断崖絶壁が広がってた。女の子じゃなかったって衝撃と、男で致しちまったってダブルパンチで、オレ、その場に膝ついてしばらく立ち上がれなかった。

 ……でも、帰りしなに微笑んで手振ってくれたその子、めちゃくちゃいい匂いがして、ちょっと好きになりそうでした」



 話を追えると、ベビーフェイスの青年は、力強く畳を叩いた。叫びながら、何度も、何度もこぶしを叩きつけた。

「ちくしょう! ちくしょう! あんなきれいな顔して男だなんて詐欺だよ! ちくしょう!」
「お前、女は一目見りゃあ服着ててもスリーサイズまでわかるってあんだけ威張ってたくせによ……」

 黒服が呆れた声でとどめを刺すと、ベビーフェイスはうずくまってすすり泣きを始めた。
 そんな様を横目に、最後の語り手がいそいそと居住まいを正した。彼が例のネオンピンクの蛍光管を手に取ろうとすると、隣の男がそれをひょいと取り上げた。

「いや、実に愉快だった。諸君もなかなか良いネタを持っているじゃないか。また機会があれば、ぜひともお聞かせ願いたいものだね。では、そろそろスイカとビールを取りに行こうか。もう十分冷えたろう」

 と、座を締めくくろうとした青眼鏡に、狐目の男が抗議した。

「ちょおーっと待っておくんなせえ! おあにいさん、どなたかお忘れじゃあござんせんかあ!?」
「ハテ……」
「ハテじゃねえよ! わざとやってんだろ!?」
「ウン」

 狐目はバトン代わりの輪っかを力ずくで奪い取ろうとした。それをひらりとかわす青眼鏡。そうして二人、すったもんだをしているところへ、黒服が仲裁に入った。

「喋らせてやんなよ、ユリシスの旦那。でなけりゃこの野郎、あとで自分が喋ってねえから賭けは無効だのなんだの言ってゴネやがるんだからよ」

 青眼鏡の男は、子供のように頬をふくらませた。

「でもウィーゼル君。私は彼の話に、微塵も興味がないのだよ」
「兄ィはもうちっと協調性を身につけた方がいいと思うぜ」
「君と協調するくらいなら頭から硫酸を被った方がましだね」

 青眼鏡の男は、蛍光管を狐目の男の顔面に投げた。鼻っ柱に直撃を受けて苦悶する男をせせら笑うと、彼は座布団を枕にして寝転がり、大きなあくびをした。

「終わったら起こしてくれたまえ」


【NEXT】