「限りなくクロに近いブルー(Ⅲ-3)」

◆7  翌朝、ヨルシェは病室には来なかった。入ってきたのは雑用ロボットだけだ。  昼過ぎにワゴンを押して入ってきたのも、やはりそれだった。型こそ違えども、いつものように床をクリーニングし、ゴミ箱のゴミを片付け、バスルーム […]

「限りなくクロに近いブルー(Ⅲ-2)」

◆4  病室の扉は誰かが入ってくる時のほかは、かたく閉ざされていた。その入ってくるものというのも、食事の配膳や部屋の清掃を行う雑用ロボットか、さもなくば、ルイスを腫れ物のように扱う主治医くらいだった。  結局ヨルシェは、 […]

「限りなくクロに近いブルー(Ⅲ-1)」

◆1 「それにしても接見会へ出るなんて、君も無謀なことをしたものだね」  ルイスの胸ポケットから黒薔薇を抜き取りながら、ヨルシェが言った。 「積極的に接見会へ参加して勤めを果たす模範的なオメガが、齢二十五を超えて生きてい […]

「オーマイショコラ!」

◆バレンタインの朝  二月十四日のことだった。レジ袋片手に帰宅すると、エイト君がリビングのソファに転がって本を読んでいた。ソファの脇でエプロンをつけると興味を持ったらしく、本を小脇に抱えて寄ってきた。まるで餌を求める猫の […]

「リップクリーム」

◆学祭にて  彼とはじめて、ちゃんとしたキスをしたのは、大学祭のころだった。  その年、われらが奇術サークルではドーナツの屋台を出していた。  客寄せのために交代でパフォーマンスをしていたら思いのほか人が集まり、大盛況と […]

「三つ子の恋愛事情」

 詠人は部屋の扉を開けた。  兄は制服のまま、絨毯の上に転がって、すやすやと寝息を立てていた。お気に入りの羊の枕にしがみついて、よく眠っている。 「晩ご飯、そろそろできるってさ」  詠人は兄に声をかけたが、返事はない。頬 […]

「慈愛のスピリット」

◆ハジメマシテ  男には賢者タイムなるものがある。しかし私のうなじに頬をすり寄せて、ねーねーちゅーちゅーと鳴く生き物にとっては、まったく無縁のものであるようだ。  私の背中にくっついて鳴くこの生き物は、桃園詠人と呼ばれて […]

「おねだり暴君」

◆一生のお願い(十二回目)  テーブルに頬杖をついて、じっとこちらを見つめるエイト君に、私は再び頭を下げた。 「お願いします。なにとぞ……」 「……出席日数が、足りないんだっけ?」 「そう。これ以上休むとまずいんだけど、 […]