「オーマイショコラ!」

◆バレンタインの朝  二月十四日のことだった。レジ袋片手に帰宅すると、エイト君がリビングのソファに転がって本を読んでいた。ソファの脇でエプロンをつけると興味を持ったらしく、本を小脇に抱えて寄ってきた。まるで餌を求める猫の […]

「リップクリーム」

◆学祭にて  彼とはじめて、ちゃんとしたキスをしたのは、大学祭のころだった。  その年、われらが奇術サークルではドーナツの屋台を出していた。  客寄せのために交代でパフォーマンスをしていたら思いのほか人が集まり、大盛況と […]

「三つ子の恋愛事情」

 詠人は部屋の扉を開けた。  兄は制服のまま、絨毯の上に転がって、すやすやと寝息を立てていた。お気に入りの羊の枕にしがみついて、よく眠っている。 「晩ご飯、そろそろできるってさ」  詠人は兄に声をかけたが、返事はない。頬 […]

「慈愛のスピリット」

◆ハジメマシテ  男には賢者タイムなるものがある。しかし私のうなじに頬をすり寄せて、ねーねーちゅーちゅーと鳴く生き物にとっては、まったく無縁のものであるようだ。  私の背中にくっついて鳴くこの生き物は、桃園詠人と呼ばれて […]

「おねだり暴君」

◆一生のお願い(十二回目)  テーブルに頬杖をついて、じっとこちらを見つめるエイト君に、私は再び頭を下げた。 「お願いします。なにとぞ……」 「……出席日数が、足りないんだっけ?」 「そう。これ以上休むとまずいんだけど、 […]

「寝相矯正」

◆ベランダ封鎖  ある日の午後、エイト君がリビングで奇妙なことをやっていた。バルコニーへ通じるガラス戸の錠を、針金でぐるぐる巻きにしていたのだ。  半円形の鍵を回転させなければ、ガラス戸は開かない仕組みだ。彼はその鍵をが […]

「風邪ひき暴君」

◆じゃれたい放題  病気になると不安になって甘えたがりになる人間がいるらしいが、うちのエイト君もまさにそのタイプだ。  冷却シートを額にぺたっと貼ってやると、彼は気持ちよさそうに目を細めた。ふう、と一息ついたあと、彼は甘 […]

「22年ローン」

◆真夜中のミーティング  自販機で缶コーヒーを買ってから、エイト君はエレベーターに乗り込んだ。ダイニングテーブルについてそれを飲むまで、彼は一言も口をきかなかった。椅子に座るよう私に指図する時でさえ、軽く顎をしゃくるだけ […]

「キャバレーの罠」

◆楽しい夜遊び  大学時代、私はエイト君と同じマンションの一室に暮らしていた。  当時エイト君は、ずいぶん忙しい生活を送っていた。  朝、私と同じくらいの時間にのそのそ起きだして学校へ行き、夜遅く、日付の変わったころにな […]