「もしも時間を戻せたら(9)」

◆28 「あたまいたい」  真っ黒な空を見つめながら、菊池がつぶやいた。彼の取り巻き筆頭の御影に家を聞いたがわからず、本人に尋ねようにも起きないので、とりあえず僕の家の方に向かった。でも、さすがに彼を部屋へ上げるのははば […]

「もしも時間を戻せたら(8)」

◆26  悪い夢を見ていたのだ。あの嵐の夜に、ドアチャイムから始まった一連の出来事は、すべて悪い夢だったのだ。そう考えると、少し気が楽になった。もちろん、それで菊池と体を重ねてしまった事実が消えるわけではない。でも、僕の […]

「もしも時間を戻せたら(7)」

◆21  窓を叩く雨音で、僕はぼんやりと認識した。ガラス一枚隔てた向こう側で、未だ猛威をふるう嵐の存在。台風十号は、まだ激しい風に雨を伴って暴れている。 ――そしてその中に、菊池が出て行ったことを思い出すと、僕ははっとし […]

「もしも時間を戻せたら(6)」

※本作品の◆19に、R-18程度の性的表現が含まれます。18歳未満の方は閲覧をお控えください。 ◆16  ――――宮川の言葉が、ずっと頭の中で回っていた。 「食べないの?」「食べる、けど」  促されて手をつけ始めたクアト […]

「ヨツヤカイダン(2)」

 劇団の入団審査はつつがなく進み、とうとう面接にまでこぎつけたわけだが、その最中、サミュエルは気が気ではなかった。  面接会場は、さほど大きくないが小奇麗なビルの三階にある会議室だった。長机に掛けた面接官の向かいには、パ […]

「もしも時間を戻せたら(5)」

◆13  見落としたのだろうか。いや、そんなはずはない。混乱と焦燥のために、意味もなく辺りを歩き回っていると、ふと菊池が呟いた。 「そういえばボク、元々入ってたディスクの下に入れちゃったかも」「……なんだって?」「うん、 […]

「ヨツヤカイダン(1)」

「出るらしいよ」  器用にはさみを使いながら、そばかす顔の男が言った。 「ヒラサカの辺りに」「なにが?」「死んだのが」  しゃく、しゃく、とはさみに切り落とされた髪が、静かにタイルへ散ってゆく。 「蝶になって、戻ってくる […]

「もしも時間を戻せたら(4)」

◆10  会議室を出て階段を使っていると、ふと、誰かの怒鳴る声が聞こえてきた。聞くとはなしに聞いたところ、口論というより、一方が感情的に突っかかっているらしい。 気にならないではなかったけれど、わざわざ厄介ごとに首を突っ […]

「もしも時間を戻せたら(3)」

◆8  ソファは寝具の代用品たりえないのだということを、僕は身をもって理解した。眠る前よりもかえって疲れているような気さえする。仮眠の目的でわざと床で寝る時とは、また別の疲労感だった。  飛び出したあくびを手のひらで隠し […]

「もしも時間を戻せたら(2)」

◆4  カーテンを開けると、晴れやかな日差しが部屋を照らした。菊池の姿は、いつの間にやら消えていた。  彼の痕跡は、コーヒーでも飲もうかと台所へ向かった時、ソファの片隅に見つかった。メモ書きには、おそらく菊池の字で、一宿 […]